その夜、店は暇そのものであった。
絵里はぼんやりとカウンターの中を見ていた。
バーテンダーの健ちゃんがカクテルを作っている。
彼は、暇さえ有れば練習を欠かさない。

絵里は何となく、健ちゃんに好意を持っていた。
将来は自分の店が持ちたいと夢を話すその姿を
見ていると、亡くなった同棲相手を思い出すのだ。
絵里はカウンター席に移動した。
足をぶらぶらさせながら、健に話しかける。

「健ちゃん。またやってんの?」

「あ。絵里さん。暇っすからね」

「は、あたしなんか最近いつでも暇よ。あの子のおかげでね」
絵里の視線に釣られ、健も亜季を見た。

「亜季ちゃんすか。売れてますよね。でも俺は絵里さんの
方が好きだな」

「ありがと。お世辞でも嬉しいわ、ね。何か作ってくれない」

「いいすよ。ベースは何で?」
「そうね…。ね、あたしに似合いのカクテル考えてよ」
健はしばらく頭を悩ませているようだったが、ニッコリと
微笑むとテキーラを取り出した。


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