「店長かっこいー」
麻理と志郎が声を合わせた。
店長は黙って微笑み、ピースサインを送る。
憎しみに満ちた目でその姿を見つめ、ビクターが歯軋りした。
「き、貴様!くだらない真似を!」

「おや、怒ったね、ビクター。言っとくけど、ガムテープ外す時は
気をつけてあげなよ。ジャック君の毛、ぜぇんぶ抜けちゃうからね」

「店長ざんこくー」
再び麻理と志郎が声を合わせる。
今度はガッツポーズでそれに答える店長である。

「今度は私の番だ」
怒りに体を震わせながら、ビクターが拳を前に構えた。
打撃系の技を振るうつもりと見えた。
その大柄な肉体から繰り出される打撃が、
一つでも当れば店長は恐らく吹っ飛ぶ。
格闘技は体重が勝った方が有利というのは絶対的な真理である。

「おや、ビクター。フランケンシュタインと言えば、力技だけと
相場が決まっていたが、器用なことだな」

店長の軽口を完璧に無視し、ビクターの巨体は音も無く近づく。
巨大な右の拳が繰り出された。
が、これはフェイント。

本当の攻撃は左のアッパーである。
実はこれも高度なフェイントである。
ビクターの狙いは右のハイキック、と見せかけて左のローであった。
懸命なる読者諸氏にはもうお分かりであろうが、これもまたフェイントである。
本当の本当にビクターが狙っているのは、左の肘打ちであった。

必殺の左肘が店長の鎖骨めがけ、振り下ろされた。
当れば腕の自由が利かなくなる。
当れば、だが。

店長はビクターの渾身の一撃を事も無げにかわした。

「遅い」
ぬるり、と背後に廻った店長が掌底をビクターの背中、
ちょうど心臓の後ろあたりに当てる。

「破っ!」
凄まじい気合にガラスが震える。
途端にビクターは、糸を切られた人形のようにグダグダと倒れ込んだ。

「日々を無駄に過ごしていなかったのは、お前達だけではない。
私も修練を積んできたのだ」
まるで相手を倒した直後のブルース・リーのように哀しげな表情を
見せながら、店長はゆっくりと振り返り、ベイを指差した。

「お待たせ。次はお前だ、ベイ」