向かう先はもう、決めてある。
森下誠一。
森下グループの御曹司だ。
無論、逸美には何の接点も無い。
勤務先の会社の若社長、それだけの関係である。
玉の輿。
その言葉だけが頭に浮かぶ。

「すいません、ちょっと忘れ物しちゃって」
警備員に声をかけ、エレベーターに向かう。
確か今夜、遅くまで会議と聞いている。
玉の輿。
何不自由無い暮らし。
何でも買える、どこでも行ける。
この赤い糸は、幸せへのパスポート。

森下の顔を頭が痛くなるほど強く強く思い浮かべ、
逸美はソッと糸を床に置いた。
するすると糸が伸びていく。
森下が居る役員室の扉をすり抜け、糸は部屋の中に
入っていった。

五秒後。
扉が突然開け放たれ、誠一が飛び出して来た。
「逸美さん、逸美さんは何処だい?僕の逸美さん、
顔を見せて」

「よっしゃぁ、ゲット!」
ガッツポーズを取りながら、逸美は誠一の前に姿を現した。
途端に、息が詰まるほど強く抱きしめられる。