出るのだという。
見た人が多数現れたとマンション中の評判だった。
エレベーターの小窓から、真っ青な顔の女が覗いていたという者もいる。
一人で乗り込んだ筈なのに、背後に誰かが立っていたという者もいた。
行き先のボタンを押そうとしたら、空中から白い手が現れ、4階を押した…
そう震える者もいる。

「出るわけないよな」
はは、と軽く笑い、やって来たエレベーターに乗り込んだ。
ボタンを押そうとする指が止まる。
エレベーターの天井に、黒い影が張り付いていたのだ。

「ひぃっ!」
頭を抱え込み、恐る恐る目を開けると既に影は消えていた。
慌てて飛び出し、非常階段に向かった。
階段を降りる頃には、汗だくになっていた。

翌日も、その翌日もエレベーターの怪は続いた。
どうやら霊は英夫が気に入ったらしい。
なんと、おそるべき事に彼の勤務先にまで現れ始めた。
エレベーターの空間同士が繋がっているのかもしれない、と
英夫は考えた。

そう考えなければ納得いかない。
駅やデパート、友達のマンション、
どのビルのエレベーターに乗り込もうとも、必ず霊がついてくるのだ。
とうとう英夫はエレベーターに乗れなくなってしまった。
この数ヶ月間、ずっと階段を使っている。