その人垣が崩れた。
一人の男性を通しているのだ。
近づいてきた男性は沖田に声をかけた。

「沖田さん、私にもチラシを一枚くれますか」
大泉総理その人であった。

「そ、総理」

「申し訳ない、沖田さん。お年寄りを大切にしない国は滅びますね。
私、よく判っていたつもりですが…これ、宿題にさせてもらえますか」

大泉総理が沖田に握手を求めた。
沖田のゴツゴツした手が応える。

「気をつけてお帰りくださいね」

「あ、ありがとうございます。総理。あ、そうじゃ。
一つ尋ねてもよろしいかな」

「何でしょう?」

「両国はどっちですかいの?」

故郷へ向かうトラクター。
その運転席に錦山関のサイン色紙が大切に
置いてあった。
沖田は、佐和ばぁちゃんの喜ぶ顔を
思い浮かべ、空にかかる満月のように
ニッコリと微笑んだ。

大泉総理の英断により、アナログ放送停止は見送られた。
20年の準備期間の間に、コンバーターの低価格化を
企業に命じた。
目標設定価格三千円。
介護保険対象者には無料配布、無料設置。

佐和ばぁちゃんの歓声が聞こえる。
「よっしゃ、錦山ぁ、そこ、そこで上手出し投げっ!」

庭先でゴンが、相変わらず困った顔で佐和ばぁちゃんを見ている。
けれど、ゴンも嬉しいに違いない。
その尻尾がパタパタと激しく振られていた。