カウンターの端に居た、年齢不詳の女性が歩美を手招いている。
「ここしか空いてないよ。こっちおいで」

歩美は、普段は割合と人見知りする方なのだが、その女性の
ざっくばらんな話し方に不思議と従ってしまった。

「面白い店ですね、ここ」
自分でも驚いたことに、見ず知らずのその女性客に話し掛けている。

「あぁ、面白いよ。そして暖かい。腹が減ってるなら叉焼丼。
一杯やりたいなら鰤大根。あの熊、ああ見えて腕も立つ。
どっちを食べても疲れた心が暖まるよ」

歩美はまじまじと相手の顔を見てしまった。

「あ、わたいは師匠と呼ばれてる。なに、あいつの都合の良い時だけの
師匠だぁね、猫や堂という骨董屋をやってるんだよ。よろしく」

「歩美といいます。あの…なぜ、あたしが疲れてるって。
そんなに疲れた顔してました?あたし」

師匠と名乗った女性は、けたけたと笑って答えた。
「この店に一人で来る女の子はね、大抵何か抱え込んで
疲れちまってる。不思議とこの店はそういう子が集まるんだ。
わたいは、このカウンターの端っこで何人もそんな子を見ている。
あんたも同じ空気をまとってるだぁよ」