庭の椚の木にカブトムシが居る。
重蔵は何の気なしに、それを捕まえてみた。
元気良く足を動かしている。
今年の盆には息子夫婦と孫が帰省してくるかもしれない。

(カブトムシ…喜ぶかもしれん)

とりあえず、空いている金魚鉢に入れた。
(そう言えば、この金魚が死んでからはなんも飼っとらんな…)

近所のスーパーにカブトムシの売り場が有った事を思い出し、向かう。
ついでに昼の総菜も買うことにした。

妻が亡くなってからというもの、重蔵は昼飯に手を抜く事が多くなった。
今年の夏は水で戻せるザルソバばかり食べている。

少し痩せたが、軽い方が、いつお迎えが来ても迷惑をかけんで済む。
そう己に言い訳する。
最近、言い訳も増えた。
カブトムシなら一夏だけ飼えば、死ぬ。だから情も湧くまい。
そんな言い訳を念仏のように唱えながら売り場に向かった。

売り場を見て重蔵は心底驚いた。

「なんじゃこれは…」
思わず声に出た。

カブトムシ用のゼリー、明るい色の虫カゴ、防虫マット、腐葉土。

至れり尽くせりとはこの事じゃなと呆れながら、とりあえずセットで買ってみた。

孫に渡すには、その方が良いと思ったのだ。

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