驚いて振り向くと、そこには宿の女将がいた。
目のやり場に困る姿でだ。

確かに、この地は旅人に最高のもてなしをするようだ。
その夜、私は身を持ってそれを実感することとなった。

翌朝遅く、贅沢な朝飯を済ませ、私は散歩に出た。

例によって、村の中心を横切る川へ向かう。
今日も満開の桜が出迎えてくれる。

さやさやと澄んだ水が流れる川沿いに、恐らくは百本近くの桜が並ぶ。

川面に映える桜色が、何とも艶やかだ。
桜に誘われるように、少し足を伸ばしてみた。

花見だろうか、村人が何人も集まっている。
見知った顔を見つけたので、近づいてみた。

こんにちは、と声をかけると、誰もが皆、にこにこと笑いながら挨拶を返してくれる。

何をしているのかと見ると、一本の桜を飾り付けているようである。

見事な桜であった。
他の桜を圧倒するのは、その枝振りだ。

不思議な桜だ。
川に向かって一本伸びた太い枝だけに、真っ白に近い色の花が咲いている。

他の枝は全て見慣れた桜色なのだ。

不思議な桜ですね、と問うと、村人は御神木だでのぅと答えた。

百本近い桜の中で、この枝の花だけが白いのだと言う。