初夏の北海道、人の姿とて見かけぬ針葉樹林の中を一人の老人が歩いていた。

老人は、しっかりとした足取りで谷への急斜面を下り始めた。

肩にディパック一つだけをかけ、手にはスケッチブック。

時々立ち止まっては耳を澄ます。


ツーチーツーチーと鳥の声がした。

老人は嬉しそうに、声のする方を見る。

「お。おったぞ。エゾムシクイじゃな」

12cmほどの小鳥は、暗い緑褐色に黄白色の眉斑を持っている。

スズメ目ウグイス科エゾムシクイに間違い無かった。

「良い声じゃの。さて、描かせてもらいましょう」

老人はスケッチブックを広げ、胸ポケットから一本の絵筆を取り出した。

だが、肝心の絵の具が見当たらない。

老人は絵筆をエゾムシクイに向けた。

不思議な事に、絵筆の先が淡く虹色に輝きだす。

筆先に虹を宿した絵筆を、スケッチブックに走らせる。

真っ白な紙に、エゾムシクイそのものと言っても良い絵が描かれた。


「ほい出来た。」