目覚めた時、晃の側には仁美が眠りこけていた。
一晩中、看病を続けていたのだ。
その柔らかい髪をそっと撫で、晃はこの島を訪れた時に着ていた
服に着替えた。
肩にディパックを背負い、そっと部屋を出た。

「兄ちゃん。行っちゃうの」
いつの間にか目覚めた仁美が呼びかけた。

「仁美ちゃん、ごめんね。僕、最後にもう一度海を見たいんだ」

「最後?一晩寝たから、元に戻るんでしょ?」

振り向いた晃は、寂しげな顔で答えた。
「駄目なんだ。どうやら、力を使いすぎたみたいだ。ほら、見てごらん。
影がもう無い。それになんだか体が硬くなってきたみたいだ」

驚いて飛び起きた仁美は、晃の足元を見つめ、悲鳴をあげた。
陽の光を浴びているのに、晃には影が無かった。

「楽しかったなぁ、この島で君たちと過ごせて。また逢えたらいいな」

「兄ちゃん。兄ちゃん、あたし」

さよならも言わず、晃は歩き出した。
この人を止めてはいけない、仁美は追いかけたい気持ちを
必死に押さえ、見送った。
もう助からないなら、せめて大好きだった海を見せてあげるべきだ、
そう思ったのである。

そして一時間後。
せめてもう一度だけ、思い出のキャンプ地に行こうと部屋を出た
仁美は、この場所で石像になった晃を見つけたのであった。

「兄ちゃん…」

晃は海を見つめ、その顔に微笑みを浮かべたまま、石になっていた。

「兄ちゃんっ!」
仁美の涙が零れ落ちては、石像を濡らした。