私が敬愛するエドガー・アラン・ポーの著作に
『メルツェルの将棋差し』という一編が在る。
これは、18世紀後半に存在したハンガリーの技術者、ケンペレンが
作成したオートマタ(自動人形)の謎を暴いたルポルタージュとも
いえる短編である。

当時、オートマタと呼ばれるからくり人形が流行していた。
文字を書いたり、絵を描いたり、ピアノを弾いたりするのである。
だが、その中でもケンペレンが創り上げたチェス人形は
他には無い特徴を持っていた。
オートマタと言えども、所詮はゼンマイと歯車で出来上がっている。
その為、決まった動作しかできない。
それに対し、、このチェス人形は人間と対戦することが出来たのだ。
なんと、ナポレオンも対戦したことがあると言う。
(ちなみにナポレオンは負けた事に腹を立て、チェス盤を引っくり返した)

外見をトルコ人に作り上げたこのチェス人形は、半世紀もの間、
人々の話題を集めた。
ポーは、その謎を徹底的な取材と明晰な推理を以って解いていったのだ。

そのポーをして、どうしても解けない謎が日本に在ったことを
知る者は少ないだろう。
私もこの間、初めて知った。
あのポーが匙を投げた謎が日本に在ったとは、と誇らしげに
思ったことではある。

その外見は、チェス人形と同じくトルコ人である。
目の前に箱があるのも同じ。
だが、出てくる物が決定的に違う。
このトルコ人は、箱の中から自動人形を出すのだ。

その自動人形は、一見して蛇に似ている。
レッドスネーク・イエロースネーク・グリーンスネークと
呼ばれている。
このスネーク達は、それ自身が意思を持ち、動くのである。
得意技は「キッスオブファイヤー」と呼ばれた。


ポーは、あまりの恐怖に、途中で劇場を飛び出してしまったらしい。
最後まで見ていれば、スネーク達の謎は解けたのであるが…
誠に惜しいことをしたものであった。