江戸湾警備を命じられていた武蔵の国、川越藩に一人の侍がいた。

名を内池武者右衛門。
彼は学校の歴史には絶対に登場しない。
だが、大変な事をしでかしている。

頃は弘化三年。


江戸湾沖に二隻の黒船が現れた。

「出たっ!行くぞい」

武者右衛門と11人の仲間は、黒船目指して小舟を出した。

「わちゃあ~デカいなぁ…」

見上げると異人達は全員鉄砲を構えている。

「怖っ。鉄砲やん!」

「いいから行けって武者右衛門。はい、武者右衛門の~カッコいいとこ見てみたいっ!」

ハイハイハイハイとおだてられて、武者右衛門は舷側から船内によじ登ってしまう。


「わぁ。わぁ。登ってもうたがな…どうしよ。どうしよ。」
あ、そうだ。とりあえず…

武者右衛門は川越藩の御船印を取り出し、船首に駆け寄るとバタバタと振った。
「俺一番乗り~っ!」

とんとん

「邪魔すんなよっ!一番乗り~っ!武者右衛門すんげ~っ!」

とんとん

「なんだ…よ」


振り向くとそこには、異人達が山盛り。
「う。こんにちは」
通訳が出てきた。
筆談を始める。

国名や名前を書いたりしてる。

無事に船を降りた武者右衛門は、ものすごく感心して上司に報告した。


『小刀にて、四方を削り、筆のように致し候。中より墨が出でし候』


武者右衛門が何よりも感心したのは、通訳が持っていた
鉛筆であった。


ペリーが来航する七年も前の話である。