次の日から熊は、母に幕の内弁当を届け始めた。
毎朝毎朝、自分の目で選んだ食材で作り、昼に届ける。
母は見ただけで突き返す事もあった。
一口ずつ箸をつけるのは、まだマシな方だ。

「まだまだだねぇ…それじゃあ、家族は養えないよ」

「まだ理が勝っている。理屈じゃないんだよ」

熊は必死だった。何とか、母の命があるうちに
全て食べてもらえるような弁当を作りたい、その
願いだけが頭の中を埋め尽くした。
そんな時、いぶと娘が訪れた。

「どう?調子は」

「だめ。全然だめ。何がだめなんだろ。…あ、おにぎりでも作ろうか?」

「うん、おとーしゃんのおにぎり食べたい」

熊は娘の小さな口に入るように、小さくおにぎりを作った。
娘の好きなキビナゴを入れる。

「はい、どーぞ」

「わぁ、かあいいね、このおにぎり」
食べた途端、娘は顔一面を笑顔にして喜んだ。

「おいしいねぇ、おとーしゃん」

熊は己の手を見た。娘を見た。妻を見た。
「…これか。これがそうか。相手に合わせて、相手を思い浮かべて
作ること、それが情か。俺は、俺はただ、母に認められようと
それだけしか考えてなかった」

熊は思い切り娘を抱きしめた。
「ありがとう、父さん、ようやく判った…」

「おとーしゃんいたいよ」

「あ、あぁごめんごめん」

九へ