『あな…た…、決して見て…は駄目よ…』

『あぁ、大丈夫だ。絶対に見ない。安心して行って来い』

『す…ぐに戻る…から』

声が遠ざかる。

次いで、異様な音がした。
その後、西川の呻き声がしばらく続いた。

『こ…れでいい。もう、見られない…見ようにも目玉が無いのだ。
妻は望み通り、ヨモツカミから許しを得られた。
これから黄泉比良坂を下る』


定岡が舌打ちした。
「いつまで聞いてんすか。こんな戯言」

稗田が片手を挙げ、制止する。

『妻は後ろから来ている筈だ。ひたひたと、足音が聞こえる。
風を感じる。もうすぐ外なんだろう。神話では、旅立ちの用意をしている伊邪那美を見るだけで誓いを破る事になったが、私にはその心配が無い。
目玉が無いからね。
ははははっ、なぁ、おまえ』

ひょおおおと風の音がした。

『……あなた。あれほど見てはならぬと言ったのに』
女の声に、ニチャニチャという音が混ざっている。

『お…まえ、どうしたんだ。なんだこの臭いは』

『振り向くこと自体が禁忌なのです。たとえ目玉が無くともそれは変わりません。わたしは、わたしの体は溶け落ちてしまうでしょう。
そうなる前に、どうか殺してください。あなたの手で』

七へ