マスターはまだ、帰ってこない。
俺は今日も店番だ。
このまま、この店で働くのもいいな、そう思ったりしている。
ステージには俺の大好きなテンプテーションズがDream Come True
を歌っている。
店のドアが開いた。

「いらっしゃ…い」

玲子だった。
ニヤニヤと笑っている。
「あら、良く似合ってるわね、その蝶ネクタイ」

「ご注文は」

「愛想の悪いマスターね。アルバイトは要らない?
看護師の資格も持っている、イイ女だけど」

「折角だが、店が暇でね、バイトは募集してない」
俺はグラスを磨きながら答えた。
その手に玲子の細い手が重なった。

「だったらね、キャッチボールが大好きな息子の、
父親を募集中なんだけど。いい人知らない?」

「一人…知ってる。お客さんもよく知ってる男だ」

俺はグラスを磨くのを止め、Marlboroを咥えた。
人は本当の愛を見つけるために恋をする、か。

ふん。

当たってやがる。

ようやく、気づいた。
俺は別れてからずっと、目の前の女に恋してたんだ。

「煙草はもう少し後にして」

「なぜだい?」

「キスの邪魔よ」


煙草はキスの邪魔になるらしい。
俺は禁煙することに決めた。