「いいか、トーントーンって足で地面を突いて。
ペダルは外してあるから、足も着きやすいはずだ。
今日で三日目だからな、もう馴れただろ?」

(なるほどね、なかなか合理的だ。)
慎二はいつの間にか、その親子に見入っていた。

「ブレーキのかけ方も判るだろ?後ろからかけて、
次に前をかける。うん、なかなかいいぞ、慎二」

(なんだ?俺と同じ名前か)
慎二は余計に目を離せなくなった。
そのうち、どうにか男の子は真っ直ぐふらつかずに
進めるようになった。

「よし、ペダルを片方だけ付けるからな。
まず一回だけ踏み出してみろ」

確かにこの父親のやり方は合理的だ。
まず、ペダルを取ってサドルを下げ、足が着いた状態で歩かせる。
次にトーントーンと足で地面を蹴りながら前に進む。
こうすることで、自転車がバランスを保てば倒れないと
いうことを体感させている。
そしてペダルを片方だけ戻し、踏み出させる。
その時には、すでにブレーキのかけ方も判っているから
怖くないというわけだ。

「うまいうまい。いいぞ、慎二。よーし、いよいよ次は
両方戻すぞ。」

自転車が本来の姿に戻った。
男の子は、まっすぐ前を見ている。

「いいぞ。足元を見ると必ず転ぶからな、前を見るんだ。
進んでいる限り、自転車は転ばない。
安心して行け」

男の子は父親の言うことを全面的に信用しているようだ。
歩き出すように一歩目を漕ぎ出した。
思わず、慎二は拳を握り締めていた。



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