「すいませんでした。助かりました。御主人、開店のお邪魔を
してしまってるのでは?」

「構わんよ。どうせ今日で閉めるんじゃ。」

「え。閉店ですか?」

男はそこでようやく、店内を見回した。
「和菓子屋さんですな。」

「そうじゃ。爺さんの頃からの店でな。わしも続けたいのは
山々じゃが、最近の子供は和菓子は好かんのかのぅ…」

「一ついただいてもよろしいですか?」

「あぁ構わんよ。ほれ、これがわしの自慢の菓子じゃ。月兎という。」

それは黄色い土台に、白く兎が染め抜かれている菓子であった。

「…なんて優しい味。これ、最高じゃないですか。」

店主は自慢気に微笑む。

男はしばらく、月兎を眺めていた。
「御主人。これ、少し私にいただけませんか。
それと、店を閉めるのを二日だけ待ってください。」

「…どうするんじゃ。あんた、一体何者じゃ。」

「お世話になったお礼もありますが、何よりこの菓子に惚れました。
是非、任せてください。」

二日間だけ、という約束を取り、男は出ていった。