あの時のカレーは最高に美味しかった。

母さんがあっけなく亡くなり、一人きりになったアパートで、私はあれから何度となくカレーを作ってみた。

ある程度はあの日のカレーに近い味になるのだが、どこかが違う。


今日、私はまたカレーを作る。
大好きな彼が来るのだ。

仏壇の中で、父さんと仲良く並んでいる母さんに話しかけた。

「母さんが言ったとおり、素敵に食べる彼氏が見つかったよ。ちゃんと、その人のことを思いながら作ってる。でもどうしてかな、あの日作ったカレーが出来ない」


台所に立ち、私はあの時と同じように玉ねぎを刻み始めた。
ふと思い立ち、あの日と同じCDをかけた。

『愛の夢第三番』が流れ出した。
母さんの指先を思い出した。

「あ。そうか」

判った。
あのカレーが何故美味しかったのか、いきなり判った。

あの日、母さんと私は、肩を並べて互いのことを思いやりながら作ったんだ。

お互いへの愛情が入ったカレーなんだ。
二倍美味いに決まってるじゃないの。

だから、二度とあのカレーは再現できない。

いつか私に娘が出来たら、その時はきっと、最高のカレーができるのだろう。

とりあえず、今日のカレーは失敗かもしれない。

玉ねぎに涙が混ざってしまったのだ。