壬生にある新撰組屯所は、先程から只ならぬ気配に満ちていた。
何人かが集まっては、ひそひそと何事か話している。
その会話の端々に芹沢、という言葉が上る。

「本当に見たのか」

「酔っていただけではないのか」

隊士が浮き足立つのも無理は無い。
綱紀粛正の元に暗殺された芹沢鴨を見た者が
多数現れたのだ。
ある者はその後姿、また或る者は擦れ違ったと言った。
いずれにせよ、気の迷いに相違無いと結論が出されかけた時、
面と向かって話し掛けられた者が現れたのだ。

「そのうち近藤にも、土方と沖田にも挨拶しに行く」
そう言って芹沢は豪快に笑いながら立ち去ったという。

「どう思う、土方、沖田」
人払いをした一室で、近藤は両人に向き合った。
土方は黙して語らない。
沖田は、何を考えているのか判らない態で
庭ばかり眺めている。

(どうもこいつは苦手だ)
渋い顔つきの近藤が、再度問うた。

沖田は爽やかに微笑むと、涼しげに笑った。
「どうもこうも、本人が芹沢だと言い張るのですから
芹沢なのでしょう」

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