あの子は、あんなに優しく育った

声を掛けようと決めた途端、ショーウィンドウに己の姿が映った。
唇を噛みしめ、両手で顔を覆う。

だめ
あの子の未来に、今の私は必要ない
思い出の私だけでいい

朝美はマンションに戻って行った。
部屋の灯りが点る。
イルミネーションが輝く。

佐枝子は、マンションのすぐ下の公園に居た。
積もった雪を踏み固めている。

「できた。あーちゃん、ありがとう。母さん行くね。
迎えに行けなくて、本当にごめんね」

その夜、佐枝子は街から姿を消した。


「おかあさん、ねぇねぇあれ見て」

「どうしたの」

「ほら、あそこの公園」

「なによ」
朝美は、娘が示す方向を見た。
「あら。誰がやったのかしらね」

そこには、雪を踏み固めて作ったハートがあった。
公園の敷地に作られた大きなハートと、大好きです、の文字。

「おかあさん、あれ何て書いてあるの?」

「あれはね、大好きです、って書いてあるのよ。さ、お家に入ろうね」

小さく、はぁい、と娘が返事をした。

「あらあら、聞こえないわ。ウサギさんのお耳にならないとダメかしら」

両手を挙げて、ウサギの耳を真似ながら朝美は笑った。