「じゃあ、このタオルを投げるからの、落ちたらスタートじゃ。ええか、正ちゃん」

茂さんが首に巻いたタオルを振りかざした。
バイクにまたがった正爺さんが親指を突き出す。

「用意はええか、行くでの」

タオルが宙に舞う。
それが落ちる直前に賢のバイクが飛び出した。

「あぁ、ずるじゃ」

老人達から抗議の声があがる。

「うるせえ。爺さんの反応が鈍いんだろが」

だが、正爺さんは一向に動じない。

「かまわん。ちょうど良いハンデじゃ」
そう言い残し、全開のVmaxと一体になった。

凄まじい排気音だけがスタート地点に残る。


先を行く賢に、追いかけてくる正爺さんの怒号が近づいてくる。

「わはははは、直線番長をナメるなよ若僧!」

その声はあっという間に賢を追い越し、ドップラー効果すら起こした。


賢は悪夢を見ているようだった。
「なんだよ、なんでVmaxであんなにスムーズにコーナー曲がれるんだよっ」

正爺さんは賢にわざと追いつかせては、振り切る。

結局、賢は最後までその背中しか見られなかった。

最終へ