この街の外れに、いつの頃からかは判らないが、
古い洋館があるのだという。
空家だったその洋館に人が暮らし始めたのが二ヶ月前。
穂恵夢は、その館でメイドのアルバイトをしていたらしい。
そう言えば、眞子もバイトを掛け持ちするかもと言っていた。

「だからね、あの洋館でバイトしたのが共通点」

「なるほど。だったらその洋館に行ってみれば何か判るかもね」

「そうだよ。きっとそうだ。行ってみるといいや。じゃ、僕はこれで」

むんず。
麻理の指輪だらけの手が、志郎の襟首を掴んだ。

「な、なにをしなさる」

「あんたも一緒に来なさい」
ずるずると志郎を引きずりながら麻理は歩き始めた。
小さく見えても高校時代は陸上部に在籍していた。
最近ではビリーズブートキャンプにも入隊している。
志郎ごとき柔な男が立ち向かえる筈が無かった。

「なんで僕が」

「あんた大家でしょ。大家といえば親も同然、店子といえば子も同然」
麻理のもう一つの趣味である落語からの受売りである。

「ほら、その箱も持って」

「どS…」

「あんだってぇっ?!」
なんでもないよぅ、と口篭もりながら志郎は箱を持ち、
麻理の後に続いた。
恥ずかしいことに鼻血を出している。