増長天の刀が僅かに揺れたかと思うと、するりと十郎太に向かった。
切っ先が煌く。
まだ大石進であった頃の必殺技、中段からの突きが狙うのは十郎太の首。
相手の目線に合わせて伸びてくる為、距離感が掴めない。
更に大石はナンバ、という歩法を使う。
古武道に伝わる足運びである。
蹴り足を使わず、膝の崩しだけで移動し、相手に防御の切欠を与えない。
どうにか避けたとしても、跳ね上げれば真っ向から唐竹割り。
左右に捌けば抜き胴。
下に打ち下ろせば、逆袈裟。
如何様にも攻撃が変化して止まない。

「逝ね」
当たれば即死。
悲鳴すら漏らせない。

次の一瞬、増長天の薄笑いが消えた。
完璧な死を与える筈の突きが、いとも容易く避けられたのだ。
十郎太は増長天の突きよりも速く、あお向けに倒れている。
首があった辺りで、空しく切っ先が光った。

「くそ、小癪な真似を」
先ほどまでの薄笑いは何処へやら、増長天は勢い込んで刀を振り上げた。
そのまま振り下ろそうとして、寸での所で踏みとどまる。
すでに十郎太の姿は消えている。

「遅い」
いつの間にか、十郎太は梢の上に居た。
細い枝を揺らしもせず立っている。