地獄の方がまだマシ、っちゅうような戦地でもな、わしゃ志乃さんに
会うまでは絶対に死んでたまるかってな、
泥水を飲んで、虫やら蛇やら食べて、仲間の屍に守られながら、
それでも帰って来た。

志乃さんはな、
志乃さんは死んどった。

焼夷弾にやられて、真っ黒になって焼け死んだんだと。
わしの手元には、焼け焦げてな炭みたいになった匂い袋だけが残った。

志乃さんは、自分の体が焼けるのも構わずに、匂い袋を守ろうとしたんじゃ。
どうにかして、わしに匂い袋を渡したい、戦地にいるわしを守りたいとな、
両手で固く握り締めて、胸にぎゅうって抱きしめて、
それでも真っ黒に焼け焦げてしもうて、炭になってしもうた。

上田の皺だらけの顔には、幾筋もの涙が伝っている。

「頼む。この匂い袋を元通りにしてくれんか」
テーブルの上に、炭化した匂い袋が置かれた。