「帝国ホテルは日本の玄関だ。あなた達の一挙手一投足が、そのまま日本人の印象になる。
そして、お客様の前にはいつも一本の棒を引いて、決してそこから踏み出さないように」
当時の犬丸徹三支配人が入社式に言った言葉である。
これを胸に刻み、年子は夢中で新人時代を過ごした。
覚えなくてはいけない事が山のようにある。
現在は分業であるが、当時は到着から出発まで、一人の客室係が全ての世話を担当していた。
茶を出すことから始まり、洋服のブラシかけ、掃除に食事、全てが任される。
当時の客の9割が外国人であり、年子はまず、英語を学んだ。
何一つ判らないが、一文字ずつ書き写し学んだ。
幸いと言うべきか、発音は客が手本になる。
日常会話に困らぬ程度になるまでには、さほど時間は掛からなかった。
次いで年子が熱心に学んだのは、他の部署で働くプロの心意気である。
例えばある日のこと。
絹張りの椅子の飾りボタンが取れかかっているのが見つかった。
VIP到着の直前であり、代替えも無い。
絹地を傷付けたら替わりの布も無い。
新たに作るよりも遥かに難しい修理なのだが、地下の工作室係は、瞬く間に直したのである。
三へ
そして、お客様の前にはいつも一本の棒を引いて、決してそこから踏み出さないように」
当時の犬丸徹三支配人が入社式に言った言葉である。
これを胸に刻み、年子は夢中で新人時代を過ごした。
覚えなくてはいけない事が山のようにある。
現在は分業であるが、当時は到着から出発まで、一人の客室係が全ての世話を担当していた。
茶を出すことから始まり、洋服のブラシかけ、掃除に食事、全てが任される。
当時の客の9割が外国人であり、年子はまず、英語を学んだ。
何一つ判らないが、一文字ずつ書き写し学んだ。
幸いと言うべきか、発音は客が手本になる。
日常会話に困らぬ程度になるまでには、さほど時間は掛からなかった。
次いで年子が熱心に学んだのは、他の部署で働くプロの心意気である。
例えばある日のこと。
絹張りの椅子の飾りボタンが取れかかっているのが見つかった。
VIP到着の直前であり、代替えも無い。
絹地を傷付けたら替わりの布も無い。
新たに作るよりも遥かに難しい修理なのだが、地下の工作室係は、瞬く間に直したのである。
三へ