「店先に信楽焼の狸があったろ?うまいこと、あの中に入ってたんだよ。去年ね、掃除してる時に見つけてさ、見た途端にあんたのだって判ったんだよ。
渡せて良かった」

一息にそこまで話すと、登紀子さんは腕時計をそっと撫でた。

「今でもね、ちゃんと動いてるんだよ。偉いねぇ」

確かに時計は動いている。
耳に当ててみた。

チッチッチッ、と小さな鼓動を立てている。

手動式だったら、どんなに壊れても父さんが直してやれるからな、そう言って誇らしげに笑った父。

あんたも時計に負けずにしっかり頑張んなさいよ、そう言って頭を撫でてくれた母。


「動いてる。動いてるね、こいつ」

私が止まろうとしているのに、父の時計は頑なに動き続けていたのだ。
まるで、今日という日を予測していたかのように、ぼろぼろの私の前に現れたのだ。

「あんたのお父さん、いい職人だったからねぇ。もう一度、金木犀を見せてあげたかったねぇ。
いつも言ってたんだよ、金木犀は儚く散るけど、毎年必ず、最高の香りを届ける為に咲いてくれるってねぇ。
だから淋しい花なんかじゃないって」