達郎の記憶の扉が激しくノックされた。

その動いているものに見覚えがあるのだ。

「これ…たまぴっちだ!俺が育ててた、くさっちじゃないか!?」

達郎の声が聞こえたかのように、画面の中のくさっちは動きを止め正面を見た。


1997年、たまごっち内蔵のPHSが発売された。
それがたまぴっちである。
たまぴっち同士、Pメールを使って遊びに行くことができた。
弱った時などは、相手のPHSに、お見舞いに行かせることも可能だ。

達郎のたまぴっちは、くさっちになったその日に、たまぴっち仲間の所へ出かけていった。

そしてそのまま帰ってこなかった。

なんと、出かけた先のたまぴっちの持ち主がPHSを水没させてしまったのだ。

そのくさっちに、プックルと名前を付けるほど可愛がっていた達郎は、次を育てる気になれなかった。

そのまま、PHSを解約して引き出しに仕舞った。


「プックル、おまえ生きてたんか!どうやってこの携帯に来れたんだ」

仲間が水没させたPHSに、この携帯の番号が登録されていたとは思えない。

だがとにかく今、達郎の携帯の中でプックルは嬉しそうに跳ねていた。


どうにかしてプックルは帰ってきたかったんだ。

多分、データは残っていたんだ。
あちこちの携帯から携帯に移動して、俺を探していたに違いない。

達郎は思わず、液晶の中のプックルを撫でた。

プックルはその指が判るかのように、頭をすりつけ、そして止まった。

「プックル!ヤベぇ、死んじまう!見舞い…なんて来るはずないよな、あぁどうしよう」


達郎の手の中でプックルは死んだ。

そして灰色だった液晶が元に戻った。

取り込んだはずのデータも消えていた。

達郎はいつまでも、いつまでも携帯を見つめていた。


何度も何度も、指で画面を撫でた。

わずか数分の再会にプックルは10年かけたんだ、そう思った途端、達郎は声をあげて泣いてしまった。