「今日中に決着をつけるつもりで来ました。
皆さんは、手出しをせず、それぞれの国へ戻ってください。
見張りの烏達もすでに、退治ています。」
どうかお願いします、と先生が深く頭を下げた。

「判っただ。頭をあげてくんろ。何の手助けも
できねぇおら達に、そうまでしてくださるとは…」

雁木小僧が仲間を見渡して言った。
「お前達ん中で、天狗の弱点を知ってるものはいねぇか。」

ひとしきりざわめいた後に、一反木綿が
「おそらく、鼻だと思います。神通力の源は、あの鼻です」

「本当ですか。」

「はい、何度となく、闘いを見てきましたが。
いずれの時も鼻を死角にさらさぬよう、注意を払っておりました。」

「なるほど…ありがとう。助かります。さ、皆さん。逃げてください。」

一人づつ、そっと裏口から山道へ逃れる。
皆、一様に涙を浮かべ、先生に礼を言った。
もともとが心優しい者ばかりなのだ。
箱根の山に残るのは、天狗軍のみになった。

十兵衛に事の次第を報告し、合流する。
「キジムナー、すねこすり、傘化け。
あなた達も良く、頑張ってくれました。
礼を言います。さ、ここからは十兵衛様と私だけで
行きます。早く山を降りなさい。」

先生は例によって、また十兵衛の肩に乗る。
妖気の強い方に向けて、山道を登って行った。
徐々に辺りに只ならぬ気が満ちて来た。

「猫殿。厳しい闘いになりそうだな。」

「確かに。恐ろしい気配です。」

「だが、いいか。死ぬなよ。約束だぞ。
一緒に海を渡るのだ。」

「ええ。十兵衛様に見せたいものが沢山ありますよ。」

二人が山道を進んでいる間、残されたキジムナー達はまだ、山の中にいた。