「これって…うちの庭?」

「毎日同じ風景しか見れねぇだろ、こいつで気ぃまぎれるかなって」

「でもカメラ壊れたって言ってなかった?」

松次郎は自慢気に携帯を見せた。
「へへ、おめぇみてぇな婆さんは知らないだろうけどな、最近じゃ携帯で写真が撮れるんでぇ」

「なに言ってんのよ、孫の祐一に教えてもらったんでしょ」

ひとしきり笑いあい、輝子は写真を見て呟いた。
朝顔、咲いたんだね。
この風鈴、まだあったんだ。
帰ったら庭の手入れしなきゃ。

その後、輝子は松次郎をまじまじと見つめた。
「いい男だね、まっちゃん」

「ば。ばかやろう、照れんじゃねぇか」

「そうだ。まっちゃん、こっちに座って。看護師さん、写真撮ってくれますか」
真っ赤になって照れる松次郎を引き寄せ、輝子はピースサインを作った。

二日後。
輝子は松次郎の手を握り締めたまま逝った。
最後に唇を四度、動かした。
言葉にはならなかったが、松次郎にはハッキリと判った。
輝子はこう言ったのだ。

「だ・い・す・き」