「ぜひぃ。いひぃ。」
その声に聞き覚えがあった。
遠山だ。
失踪した筈の遠山が扉の向こう側に居る。
いや、居るわけが無い。この区域は、誰もいない密室なのだ。
その想いを嘲笑うように、扉に嵌ったガラス窓に顔が押し付けられた。
やはり遠山だ。
けれど遠山ではない。
遠山に似ている異質な者だ。
その顔は、内側から破裂したようにズタズタに裂けている。
ぽっかりと開いた口からは、ネクタイのように舌が垂れ下がっている。
目玉は二つとも垂れ下がり、それでも孝夫を見つめているようである。
こいつは何だ、何処から現れたのだ。
孝夫は必死になって扉を施錠しようと試みた。
遠山に似た者はモゴモゴと喋った。
垂れ下がった舌が邪魔をして、上手く喋れないのだろう。
「俺らよ…遠山らよ ここから出してくれよ…
ここは 人れ一杯らよ 暑くてたまらない…」
孝夫の本能が、返事をしてはならないと教えている。
あらん限りの力で扉に立ち向かっている為、
腕に力が入らなくなってきた。
扉が僅かに開き、一瞬、中が見て取れた。
暗い闇の中は、闇よりも暗い者達で埋め尽くされていた。
ごそごそと互いに言葉を交わしている。
『こんどこそ うまく 憑くのじゃ』
『あの者は 慌てすぎた 皆がいちどきに 入るから 裂けてしもうたのじゃ』
『生きた者は 難しいのう』
声にならない悲鳴をあげ、孝夫は最後の力を振り絞った。
ようやく鍵が掛けられた。
へなへなと腰を下ろす。
扉の向こう側は、ひとしきりざわめき、やがて静かになった。
孝夫は、影達の言葉を思い返している。
おそらく、ここに吹き溜まった霊達は、遺体に取り憑いて
外に抜け出すのだ。
ここ最近、亡くなる人が少なかったからな、
生きてる者も使おうと考えたんだろうな。
この部屋に入った遺体は、ここから家に帰る時に、
もれなく御土産が憑いているわけだ。
「霊安室なんて…嘘ばっかりじゃん」
とりあえず今日、退職願を出そうと孝夫は決めた。
その声に聞き覚えがあった。
遠山だ。
失踪した筈の遠山が扉の向こう側に居る。
いや、居るわけが無い。この区域は、誰もいない密室なのだ。
その想いを嘲笑うように、扉に嵌ったガラス窓に顔が押し付けられた。
やはり遠山だ。
けれど遠山ではない。
遠山に似ている異質な者だ。
その顔は、内側から破裂したようにズタズタに裂けている。
ぽっかりと開いた口からは、ネクタイのように舌が垂れ下がっている。
目玉は二つとも垂れ下がり、それでも孝夫を見つめているようである。
こいつは何だ、何処から現れたのだ。
孝夫は必死になって扉を施錠しようと試みた。
遠山に似た者はモゴモゴと喋った。
垂れ下がった舌が邪魔をして、上手く喋れないのだろう。
「俺らよ…遠山らよ ここから出してくれよ…
ここは 人れ一杯らよ 暑くてたまらない…」
孝夫の本能が、返事をしてはならないと教えている。
あらん限りの力で扉に立ち向かっている為、
腕に力が入らなくなってきた。
扉が僅かに開き、一瞬、中が見て取れた。
暗い闇の中は、闇よりも暗い者達で埋め尽くされていた。
ごそごそと互いに言葉を交わしている。
『こんどこそ うまく 憑くのじゃ』
『あの者は 慌てすぎた 皆がいちどきに 入るから 裂けてしもうたのじゃ』
『生きた者は 難しいのう』
声にならない悲鳴をあげ、孝夫は最後の力を振り絞った。
ようやく鍵が掛けられた。
へなへなと腰を下ろす。
扉の向こう側は、ひとしきりざわめき、やがて静かになった。
孝夫は、影達の言葉を思い返している。
おそらく、ここに吹き溜まった霊達は、遺体に取り憑いて
外に抜け出すのだ。
ここ最近、亡くなる人が少なかったからな、
生きてる者も使おうと考えたんだろうな。
この部屋に入った遺体は、ここから家に帰る時に、
もれなく御土産が憑いているわけだ。
「霊安室なんて…嘘ばっかりじゃん」
とりあえず今日、退職願を出そうと孝夫は決めた。