食卓にはテリシアとマリア、魔法生物であるニコが居るだけだ。
父は長く戻っていなかった。
テリシアは微かに父の面影を覚えている。
今よりもっと幼い頃の記憶の片隅で、父は微笑んでいる。
この歳になってテリシアは、その時の父の微笑みに、
悲しみが隠されていることに気付いた。
その髪はテリシアと同じ、漆黒であった。
母が隣に居たことも覚えている。
空から絶えることなく、雪が降りつづけている。
丁度今頃の、雪の深い季節であった。
そして父はそれきり、未だに戻らない。
 
 テリシアは幾度となく、父のことを母に尋ねた。
どんな魔法を使う人なのか、今どこにいるのか。
何よりも、名は何というのか。
だが、母はそのたび、哀しい顔をして黙り込んだ。
いつしかテリシアは聞くのを止めた。
母のそのような顔を見るのがたまらなく嫌だったのだ。

 食事が終わり、暖かいハーブ茶を飲みながら暖炉の前で
くつろぐ。テリシアの前にある薄茶色の毛玉はニコだ。
ニコは、この地方固有の生物である。
魔法生物、と呼ばれるもの達の一つだ。
魔法生物は遠い昔、最初の大戦時に兵器として創造された。
大戦後、野に放たれた彼等は、その土地の動物と混ざり合い、
己達の仲間を増やしていった。


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