「我は摩多羅神。そなたを雇いに来た。と言うよりは、否応無しで
我が主のもとに連れて行く」

摩多羅神。芸能或いは五穀豊穣の神として民間に広く伝承されてはいるが、
本来は祟り神である。立川真言流では淫楽の神としても知られている。
元々はインドの神であり、シヴァ神の暗黒面を担うとも言われた。
その名はマハー・カーラ。
意味するところは『大いなる闇』。

日本に渡来した時に、もう一つの呼び名を持った。
それを大黒天という。
その片鱗は、摩多羅神の笑い顔に如実に現れていた。

「主とな。これは異な事を言う。貴様がまこと、摩多羅神として、
神に主が居るのか」
恐れを知らず、皮肉気に問う彦斎に摩多羅神が答えた。

「居る。我はその為に呼び出された。
これから仲間を増やしていかねばならぬのだ。
さて、参るぞ」

話し終えたと同時に摩多羅神は、不意に動いた。
彦斎ともあろう者が、一瞬その姿を見失う。
先ほどまでの緩やかな踊りは見せかけであった。
速い、摩多羅神は。

が、流石に彦斎も一流の剣士である。
気配を頼りに必殺の右片手打ちを見舞った。

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