だがここに一人、その
幸せを快く思わぬ者が
いた。
名を幸、という。
網元の娘であり、幼い
頃から何不自由無く
育った為、この世の
全てが自分の思い
通りになるものと
信じている。
そんな娘だった。

幸は、太吉を自分の
物にしたかった。
婿、ではなく、単なる
欲望の捌け口として。

為に、幸が桜を憎む事
甚だしいものが
あった。

幸はまず、桜の素性を
調べることにし、
出入の薬屋に頼んだ。

薬屋は、しばらくして
興味ある話を持って
来た。

「ここから遠く離れた
北国で、一人の娘が
行方不明になって
おります。
その地の豪族の娘で
、無理矢理の結婚が
嫌で逃げ出したとか。
娘の名、
桜、と言うそうな。」

思わず大きな声で、
「でかしたっ!」と
叫ぶ幸であった。

さっそく、その国元へ
使者が送られた。
二日後、太吉の家は
突然大勢の男達に
襲われた。
やはり桜は、その
豪族の娘であった
のだ。

二人の必死の願いも
空しく、桜は国元へ
連れて帰られた。

何も食わず、ただ茫と
一日を過ごす太吉は
見る影も無く
やつれていった。