くるりと丸まり、銀色の鞠となって飛び込んでいく。
速い。僧兵達は風を感じるぐらいしかできない。
何人かは鋭い反応を見せるのだが、薙刀は空を斬るばかりだ。
油すましが撒き散らした油雨は、薙刀の柄に深く染み込んでおり、構えることすらできなくなっていた。
一頻り飛び回った先生は、速度を緩めて猫の姿に戻った。
ここぞとばかりに僧兵達が殺到する。にも関わらず、先生はいつもの調子で油すましに訊ねた。
「準備はいいですか」
油すましの方は既に腰が退けている。
「い、いつでもどうぞ」
先生が尻尾を大きく振った。
と、稲妻のような青い光が尻尾から放たれ、僧兵に向かっていく。
光は、先ほど先生が飛び回った跡を正確になぞっていく。それだけではない。
恐るべきことに、光が触れた僧兵は体内から炎を噴出して燃え上がった。
「どうだどうだ!こってり油雨の本当の恐ろしさを思い知ったか!」
油すましは腰が退けたまま胸を張っている。まことに妙な格好だ。
が、とにかく良い仕事をしたのは間違いない。
こってり油雨は足元を悪くし、武器を持ち難くするだけが能ではない。
本来の目的は、揮発した油を敵の体内に蓄積させることにある。
先生は飛び回りながら、自らの体毛を僧兵達に植え付けていったのだ。
青い光は体毛を通じて、蓄積した油に火を点けていく。
全ての僧兵が火柱となって峠道を照らした。
その炎は先生を照らし、銀色の体を紅く染めた。