「な…んとかならないのか」

「遅い。遅いのよ。あの人、きっと痛かったはずなのに、
何も言わないんだもん。わたしらの事ばかり心配して、
何も言ってくれないんだもん」

姉は真っ直ぐに顔を上げたまま、ボロボロと泣き出した。

「今だって、今晩の店のことばかり考えてる。
いつも来てくれるお客さんに何て謝ろうかねぇ、だって」

「俺、どうしたらいい。ねぇちゃん、どうしよう」

「あんた、しばらく週末に通える?」

「判った。有給が全然消化できてないから、何とかなる」

熊は一年ぶりに母親に会った。
痩せている。熊の中にあるイメージと全く違う。
熊は、今日二回目の無理矢理な笑顔を作った。

「母さん、大丈夫かい?心配しちゃったよ」
母は、笑った。その笑顔は熊のイメージのままだ。

「ごめんね、心配かけちゃって。そうだ、あんたからも
先生に言っとくれよ。今日、一日入院しろって言うのよ!
お客さんお腹すかして待ってるのに」

「ダメだよ、母さん。今日は休んでて。もう、ねえちゃんが
休業の案内出しに行ったから。何年も休んでないんだろ?
たまには休まないとダメだって」

それでもひとしきり母は、残念だ、悔しいねぇ、と言いながら
いつの間にか眠ってしまった。
熊は母の髪を優しく撫でながら、しばらくその顔を見つめていた。

六へ