「河田さん、そろそろ時間すよ」

「あ、ああ、行こうか」

いよいよニューヨークである。
現地には一週間しか滞在できないが、その間に出来るだけ
ハドソン川を遡るつもりだ。
私はその記録係である。
愛用の一眼レフを首から下げ、タクシーに乗り込んだ。
途中、新河岸川に差し掛かった所で、運転手が窓の外を見た。
「なんだろ、あの人込み。あ。イルカだ。あれか、迷子イルカだな」

その途端、河田さんが叫んだ。
「運転手さん、ちょっと止めてください」

車から降りた河田さんは、川岸に向かって走り出した。

「ちょ、河田さん、時間無いッスよ」
私の声も聞こえないように、沢山の見物客の中に混ざり、
河田さんは川面を見つめている。

「緒川くん。見てみろ。あのイルカ、もう駄目かもしれん」

確かにそうであった。
体には藻がこびりつき、時折水上に現れては小さく呼吸する。

「ちぇ、仕方ないか。緒川くん、今までありがとう。
いつかまた何処かで会えるといいな」
そう言うなり、河田さんは帽子を取った。
陽の光に皿が白く輝く。
周りにいる人達がざわめき始めた。