シーサーは微笑んだまま落ちて行きました。

「シーサーさんっ!」

風太は辛うじてバランスを保ち、落ちて行く先に向けてもう一度風を放ちました。

けれども、わずかに届かず、シーサーは粉々に砕けてしまいました。

風太は唇を噛みしめ、三度目の風を放ちました。
「泣いている場合じゃない。シーサーさんの心を届けるんだ!」

風太の風は、シーサーの中に在った匂いを一つ残らず丸め込みました。

そしてそのまま、宗嗣の所まで運び、ふぅわりと放ちました。


「…なんだろ。海の匂いだ。花の匂い、太陽の匂い…それと…綾乃の匂いだ」

宗嗣の頬に涙が伝いました。

「一度、帰ろうかな」
そう言いながら、宗嗣は立ち上がりました。

その顔からは、先ほどまでの疲れが嘘のように消えていました。


風太はシーサーの破片を拾い集めました。
雲を南へ向けます。

シーサーを沖縄に返してあげるつもりです。

風太は、大きな声で泣いていました。

もう少し、自分に力が有ったら、と泣きました。

その時です。
風太の懐から声がしました。

「うるさいのぅ。沖縄はまだかの?」

「シーサーさん!?なんで!?」

「言ったじゃろ?
それはわしの魂が宿っていた置物じゃ。わしの魂は、ほれ、ここにいる」

途端に、風太の懐が暖かくなりました。

「新しい置物に入れば良いだけなのじゃよ。
すまんの、心配をかけたの」

風太はまだ泣き止みません。
でも、今度の涙は嬉しい涙です。


風太の風は、なお一層優しくなるでしょう。

そう、まるで雨上がりの花のように。