「鍋だ鍋。なんで気づかなかったんだろ、俺たちには
鍋があるじゃないか」

早速、妻に電話をかけた。
「もしもし、愛子か。今、いいか?」

「いいけど。急用?」

「ああ。なぁ、今夜、鍋にしないか」

雄司の想いは、すぐさま愛子に伝わった。
「鍋。あなた、それはいいわね。鍋があったわ、私たちには」

「そうだよ、鍋。鍋を囲もう。そして、もう一度やり直そう」

久しぶりに聞く妻の笑い声が耳に心地よい。
雄司の試みは、半ば達成したも同然であった。

「何鍋にする?」

「そうねぇ…ちゃんこ、水炊き、すき焼、しゃぶしゃぶ、
石狩鍋、チゲ鍋、カレー鍋、コラーゲン鍋、
うーん、決められないわ。あなたに任せます。
お肉でもお魚でも何でもいいわ」

「よっしゃ、任せとけ。そうだ、裕樹は」

「明日から試験だから、今日はクラブもないわ」