「おかん。俺のおとんの名前教えてくれ」
中学二年の春である。
進路相談の途中、担任に父の名前を問われた私は、
即答できなかった。
父の居ない家に馴れていたとはいえ、父の名前を知らないとは。
私は半ば恥じらい、半ば苛つきながら帰宅し、母に訊ねた。
唖然としていた母は、しばらくして口を開いた。
「ああ、そうか。教えてなかったわね」
母と私は共に振り返り、仏壇を見つめた。
モノクロ写真の中で父が笑っている。
白い綿のシャツの胸を張り、頭にはタオルを巻きつけている。
工事現場を背景に、腕を組んで微笑んでいる。
「いつも笑ってるわねぇ」
「当たり前だろ。時々泣いてたら怖いって」
母は、つと立ち上がり箪笥に向かった。
普段開けたことのない引き出しから、古びたアルバムを取り出し、
私の前に置いた。
「何これ」
「お父さん。丁度いいから見なさい」
薄い緑色の表紙を開けると、遺影と同じ写真が現われた。
その下に俊夫、26歳と記されている。
「発表します。あんたのお父さんは俊夫です」
いつも剽軽な母が、殊更におどけて言った。
なんだよそりゃ、と私は笑いながらページを繰った。
バイクに乗った父。
赤ん坊を抱いて、くしゃくしゃな顔の父。
工事現場で材木に跨る父。
初めて見る父の姿に、私は圧倒され言葉をなくした。
どの姿も力に溢れ、その笑顔はたまらなく優しい。
中学二年の春である。
進路相談の途中、担任に父の名前を問われた私は、
即答できなかった。
父の居ない家に馴れていたとはいえ、父の名前を知らないとは。
私は半ば恥じらい、半ば苛つきながら帰宅し、母に訊ねた。
唖然としていた母は、しばらくして口を開いた。
「ああ、そうか。教えてなかったわね」
母と私は共に振り返り、仏壇を見つめた。
モノクロ写真の中で父が笑っている。
白い綿のシャツの胸を張り、頭にはタオルを巻きつけている。
工事現場を背景に、腕を組んで微笑んでいる。
「いつも笑ってるわねぇ」
「当たり前だろ。時々泣いてたら怖いって」
母は、つと立ち上がり箪笥に向かった。
普段開けたことのない引き出しから、古びたアルバムを取り出し、
私の前に置いた。
「何これ」
「お父さん。丁度いいから見なさい」
薄い緑色の表紙を開けると、遺影と同じ写真が現われた。
その下に俊夫、26歳と記されている。
「発表します。あんたのお父さんは俊夫です」
いつも剽軽な母が、殊更におどけて言った。
なんだよそりゃ、と私は笑いながらページを繰った。
バイクに乗った父。
赤ん坊を抱いて、くしゃくしゃな顔の父。
工事現場で材木に跨る父。
初めて見る父の姿に、私は圧倒され言葉をなくした。
どの姿も力に溢れ、その笑顔はたまらなく優しい。