俺が最初に通った
格闘技道場は、総合
格闘技の道場だった。

初めて見学に行った時
、そこに居たのは
ニコニコと微笑む、
優しげなお兄さん
だった。

全くの初心者の俺に
、その人は丁寧に
色々なことを教えて
くれた。
俺はこの人の元なら、
強くなれるかもしれない
と、即入門した。

俺の予想は当たって
いた。
的を得た親切な指導
は、時に厳しく、時に
愉快に俺を鍛えて
くれた。

クリスマスが近づいた
ある日。

普段は殺風景な道場
に、小さなツリーが
飾られていた。

「師範代、ツリーですか
。えらいオシャレな。」

「あ。変やろ?へへ。」

「えらく古びたツリー
ですね。」

「あ。うん。これなぁ、
子どもの頃からずっと
大事にしてんねん。」

ふーん、とその時は
聞き流していた俺は
、もう一人の指導員の
口からそのツリーの
秘密を聞いて驚いた。

師範代は、孤児だった
そうだ。
冬の寒い夜に、孤児院
の前に捨てられていた
という。
その時、一緒に置いて
あったのがそのツリー
だという。

師範代が格闘技で
強くなる理由も聞いた。
強くなって、テレビとか
雑誌に出るように
なったら、もしかすると
母親が名乗り出て
くれるかもしれない。

その思いだけで
ハードな練習を乗り
越えてきたらしい。

その師範代は、その後
本部の総師範と道場の
運営方針の違いで
辞めてしまった。

俺は今でも格闘技の
雑誌を見るたび、あの
師範代の顔を捜して
いる。