「わしゃ無力だ。これ以上、無理だ。
わし一人でどうしろと言うのだ」

えらく重たい悩みのようだ。
ちょい付き合ってみるかな、と横を向いた。
「爺ちゃん、何がそんなに不満なんだい?」

爺さんは横目で俺を見た。
「は。よくぞ訊いてくれました、ってな。
ちょっとした仕事の不満なんだがね、
ぼちぼち辞めようかと思うんだよ」

「ふーん…まだまだ元気溌剌に見えるけどなぁ。
そんなに仕事が嫌なのかい?」

爺さんはグイ、っと冷酒をあおると、俺の方に向けて座りなおした。
「とんでもない。大好きだ。天職なんだ。
嫌なのは今の世の中だ。
もう、我慢できんのだよ」

いいかい、と爺さんは指を折って数え始めた。
「この国じゃぁ、イジメや虐待が無くならない。
アメリカじゃあ、小さな子供が毎日何人行方不明に
なっていると思う?銃の被害も深刻だ。
それでも毎日、食べる物が有るだけマシかもしれん。
飢えて死ぬ子供らもまだまだ世界中に居る。
路地裏で凍死する子供、過酷な労働に倒れる子供。
地雷の悲劇も無くならん」

三へ