壁伝いに上がりクーラーの風を利用する手もあるが、
スィング機能に設定してある為、思った場所に
着地できる可能性は低い。

「設定温度に達した瞬間、何分間か風量が弱まるはず。
その時を狙うしかないね」

「だ、大丈夫っすかね」
迷うあゆの背後で、子供の泣き声が聞こえた。
悪い夢でも見たのであろう。
優しくなだめる母親の声もする。

「うるせぇな、クソガキ黙らせろよっ!」
寝ぼけながら男が大声で怒鳴った。

「あったま来た。姐さん、行きましょ。おもいっきり
血ぃ吸ってやるっ!」

「今だ。行くよっ!」
一瞬の風の隙間を縫って、二匹は男に向かった。
浜子が狙うのは、右足の踵。あゆが狙うのは同じく右足の
親指の関節。

「よし、もう少しだ」
喜びの羽音を立てる二匹を一陣の強い風が襲った。
クーラーの風量が元に戻ったのだ。

「あ、姐さんっ」

「がんばんな、しがみつくんだっ」

「だ、だめっすぅ」

「くそ、負けてたまるかよっ」
二匹の頑張りもこれまでか、と思われたその時、
突然クーラーが停止した。