「あ…なた?すごい…のは判るけど何でそんな事できるのよ」

優一は、茶碗をそっと和佳子に手渡すと、照れくさそうに言った。
「いや、ほら、俺さ高校と大学と野球部に居たから」

だから出来るのだと言うのだ。
確かに優一は、あと一歩のところでプロに行けたかもしれない、
というほどの男であった。
だが、その夢を砕いてしまったのも皮肉なことに優一自身であった。
肘を壊してしまったのだ。
優一はその後、ごく普通の生活を営み、和佳子という伴侶に出会った。
いつの間にか、野球は見るだけになってしまった。

和佳子は昔の優一をあまり知らない。
写真の中の優一は、確かに野球選手である。
だが、四十を越え、頭にも白いものが目立ち始めた優一には、
かつての名ショートの面影は全く無い。

「いやぁ、動くもんだねぇ…昔とった杵柄、ってやつかな」
はっはっは、と軽やかに笑って居間に戻る。
既に一人娘は嫁に行った。
小さな猫を相手に、ちょっちょ、と鼠鳴きをして遊んでいる。
ふぅむ…、和佳子はその姿を見て、あることを思いついた。
二人が出会った時によく見せた悪戯好きの顔が甦る。

三へ