色男、金と力は無かりけり、とは良く言われるが、
津川君は正にその両方とも持ち合わせていない。
ついでの事に、近眼である。
ただ、人の良さには定評が有った。
おかげで立川先生の格好の暇つぶしの相手に
されているのである。

新婚生活も上々、難しいといわれる立川先生の原稿も
バンバン取ってこれる為、上司からの評価はすこぶる良い。
結果的に彼にとって利益になっているのだが、それが余計に
何か悔しいのである。

いつもいつも騙されてばかりでは、気分も宜しくない。
津川君、とうとう復讐を考えた。
表立って出来るわけがない。
何しろ相手は江戸川乱歩賞、横溝正史賞などを
総嘗めにしている大御所なのだ。
執筆活動に影響が有っては本末転倒も甚だしい。
一瞬だけでも良い、怖い思いをしてくれたらそれで良い。

非常に情けない復讐ではあるが、津川君、
デスクから一枚のハガキを取り出し、ちみちみと何やら作業を始めた。
一層の効果を考えて、文字を切り貼りすることにしたのだ。
新推理界の編集部には、毎日のように持ち込み原稿が届く。
丁度、津川君のデスクの下のゴミ箱にも没原稿がねじ込んであった。
何やら愚にもつかない恋愛小説だったことは記憶している。


二へ