「手応えあり」

会心の笑みを浮かべる彦斎の耳元で、にちゃりと摩多羅神が囁く。
「甘い」

いつの間にか、背後に回り込んでいた
摩多羅神が一際高く、鼓を打った。
異様な音を立て、空間を震わせる。

「うぐぅぅぅ」
その度に彦斎の体が縮んでいく。

「おぬしを毘沙門天に変えてしんぜる」
一際大きく鼓が打ち鳴らされた。
彦斎が人として聴いた、最後の音であった。


彦斎が闘っている丁度その頃。
千本丸太町の通りを飄々と行く者がいる。
辺りは暗く、自分の足元すら見えない。
鼻を抓まれても判らないとはこの事であろう。
そんな闇の中をつまずきもせず、何の支障も無く歩いている。
よく見ると、自らがぼんやりと光っているのだ。
ということは即ち、人ではない。
人では無い何かは、ぶつぶつと何やらぼやいている。

「くそう。すっかり遅れてもうたがな。今頃みんな、酒でも
呑んで騒いどるに違いないで」

ひょうすべ、と呼ばれている妖しのものであった。
伊勢参りに出かけていた為に先生達と行動を共にすることが
出来なかったのだ。

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