「熊さん、すいません、父が迷惑かけて」

「志乃ちゃん、かまわんですよ。今日は私のおごりです」

志乃ちゃんは、白いTシャツにジーンズだ。
ますます亡くなったお母さんに似てきた。
その後ろから緊張した顔つきの青年が続く。
一見して、着慣れないスーツを着用している。

「ご、ごめんください」

「いらっしゃいませ」
思わず熊は奥さんと顔を見合わせた。
お互いの目が、「この子なら大丈夫」と
言っている。

テーブル席に只ならぬ緊張が漂っている。
常連の皆も、何気ない会話を交わしつつ、
耳はそちらを向いている。

「いらっしゃい」
おしぼりを置く。さとやんと青年には冷たいおしぼりにした。
ほんの僅かだけ、ラベンダーの香りを沁み込ませてある。

「とりあえず、今日のお勧めで良い?志乃ちゃん」

「もちろんです。つくね亭の料理なら、何だって
お勧めですから」

「うれしいね、熊さん頑張っちゃうよ」

付きだしはトマトとオニオンサラダ。
ビールは京都の地ビール花街麦酒。
さらりとした飲み口が気分をほぐすのに役立つだろうと
熊は考えたのだ。

四へ