目の前にいる相手はただそこに
立っているだけなのだ。
それなのに、先生はかつてないほどの
危機感に襲われていた。

金色の髪の少女。

真っ白なワンピースを着ている。

先生は散歩の途中、
その少女を見かけ、後を追っていた。
気配を絶ち、物陰に潜み、少女を追う。

だが、少女は突然立ち止まり振り向いた。

「不思議な猫。あなた、なぁに?」

振り向いた少女は、並大抵の形容詞では
表現できないほどの美貌を持っていた。

「そう言えば、この間も不思議な犬がいた。
日本って怖い国ね。」

先生は穏形を解いた。
「私にはあなたの方が余程怖いですが。」

少女は微笑んだ。
その笑顔だけでも男達は一生を投げ出すだろう。

「猫ちゃんが話すのね。
こんにちは。初めまして。
あたしはカミラと言います。」

「この間、黒い犬を連れていたのは貴女ですか。」

「あら。もしかしたら、あの茶色いワンちゃんは
あなたのお知り合い?
怖いお友達を持っているのね。」

「大人しい奴ですよ。
相手が妖しの者で無い限り。
一つお尋ねしたい。
あなたのその唇から覗くのは…
牙、ではないのですか。」

少女は微笑んだまま答えない。

「あなた、血を吸う者ですね。
それも古い血統を持つ方だ。」

なおも微笑む少女。

「この国に来た目的を聞かせてはくれませんか。
それによっては、私も違う姿を貴女に
みせなければならない。」

少女は目を伏せた。

「…お墓参りよ。それと、友達を作りに。
邪魔しないでね、猫ちゃん。」

「出来れば私もそうしたい。
が、場合によっては…」


「怖い猫ちゃん。判ったわ。そのときはお手柔らかにね。」

少女が立ち去り、空気が緩む。
先生の尻尾は知らぬ間に金色に輝いていた。