「お待たせー。栗ようかんは有り難く頂戴するとして、とりあえずコーヒーを」

マイペースな女だなぁと愚痴る僕をにこにこと見ている。

「で?なんなの。頼みって」

利恵は、答えようとしない。

「なんだよ」

ようやく口を開いた。
「あのね、あの写真さ、バイブルだって言ってたよね?」

「またその話?あぁそうだよ。報道カメラマンなら皆、そう思うはずだ」

「じゃあさ、どんな場合でも撮影できる?」

僕は胸を張った。
「もちろん。」

「良かった。さて、それではお願いします。あたしを撮影してください」利恵が頭を下げた。

「はぁ?」

「あたしね、病気になっちゃった。
急性骨髄性白血病だって。でもね、働くの。働いて働いて、闘ってやる。だから撮って。
あたしを撮影して。
同じ病気で頑張ってる人達を励ましたいから」

僕には、彼女の言っている意味が、よく判らなかった。

「急性骨髄性白血病…って、確か夏目雅子さんが」

「そうよ。美人薄命ってのは本当にあるわね」

利恵は、まだ笑っている。
でも僕は気づいたんだ。
彼女の頬を流れ落ちる涙に。