一口一口を惜しむように食べながら、静江は久しぶりに
しゃんとした母を感じていた。
カウンター席に場所を移し、熊と話しこんでいる母は、
食堂で働いている頃の母に戻っている。
料理の話で盛り上がっているようだ。
代わりにテーブルには、カウンター席を離れた女性がやって来た。
招き猫のように、ちょこんと椅子に座る。
「あたしは、ねこや堂って言うだぁよ。骨董屋にして、この店の守り神。
あんた達ゃ、どうやら熊といぶに気に入られたようだ」

「え、何故ですか」

「ほれ、器を見てごらんな。そりゃ熊の一番のお気に入りさ。
よっぽど気に入った人にしか使わない」

須恵野焼という焼き物だという。
言われてみると、見事な器である。
骨董の知識がまるで無い静江にさえ、その器の持つ気品が判った。

「静江。なぁ、この人達なら判るんじゃないかな」

「え?」
「え、じゃないよ。義母さんの言ってる緑色の薄い皿」

「あ。そうか。あの、ねこや堂さん」
静江は今までの事をねこや堂に説明した。
母が軽い認知症を患っていること、その母が突然、
皿を捜し始めたこと。
けれど、緑色の薄い皿としか手掛かりが無いこと。
ねこや堂は全てを聞き終え、ふぅむと顎を撫でた。

「緑色。薄い皿。青磁か、或いは織部か」

ご馳走様、また来るよ、と節子が熊に言っている。

「おや、お帰りのようだ。今の件、宿題にさせてもらってもいいかね」

「お願いします」