格闘技を始めて、今年で7年になる。
俺が最初に通い始めたのは、打撃・投げ・関節技、何でも有りの総合格闘技の道場であった。
国籍や年齢を超え、色んな相手と組み手を交わしたものだ。

時には、絞め技で落とされたり、逆に関節技で悲鳴をあげさせたり。
後ろ蹴り一発でK.Oしたり。

夏合宿では昇級審査が有った。
今でも印象に残るのは、先輩の10人抜き組み手だ。

一本取ろうが、技ありを決めようが、三分間は闘い続けなければならないという厳しいルールだった。

無論、先輩は休めない。
相手は次から次に攻撃してくる。

30分、休みなく闘い続ける事がどんなものか、想像できるだろうか?

後輩達は声を枯らして応援する。
俺も拳を握り締めて声援を贈った。

ヨレヨレになりながら、最後まで立ち続けた先輩は、師範から黒帯を締めてもらい男泣きに泣いた。

俺も泣いていた。
やたらと感動したんだ。
死に物狂いの組み手が終わった時、先輩は汗と血と涙にまみれていた。

格闘技って凄いなと単純に感激した瞬間だった。
自らが必死で身につけた技で闘う姿は、その後の俺の人生に強い影響を与えた。


さて、秋山の事だ。関節技を得意とする桜庭が、全く太刀打ちできなかった。

それもその筈、体にクリームを塗っていたのだ。
俺は格闘家を名乗れるほど、打ち込んでいるわけでは無い。
だが、今までの試合で、一度たりと卑怯な真似はしなかった。
負けた試合も多いが、不思議と勝った試合よりも得る物は多かった。
秋山は、自らを汚してまで何を求めたかったのだろう。

これ以上、長々と書いても仕方無い。
最後に一つだけ。
松井選手が出演した広告の言葉を贈る。

『松井は松井を裏切らない』

秋山は、秋山を裏切ってしまった。